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しょうせつのタネ

小説のタネ

吉川 英治

「文藝春秋」1957(昭和32)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,376 字 · 23 页

青空文庫

そのたびに、ひやりとしますね。だけど、いまだに果せないでいるんです。

それと、応仁以後の暗黒時代をバックとした一休禅師もおもしろい。「一休さん」も、いつか書いてみたいと思ってる宿題です。ついこの間も、白木屋で、博物館と毎日主催の「墨蹟と水墨画」の展観があったでしょう。あの中に一休のじつにおもしろい墨蹟がありましたよ、一つ。竪幅で、紙中の上の方に“尊林”と大きく二字書いてあり、その下に細字で細々と偈(詩)が書いてある。ちょうど居合せた田山方南氏に読んでもらうと、つまりそれは「子雀の死を弔う」という詩なんです。一休が雀の子を飼っていたとみえる。その子雀が死んだのをかなしんで、偈を作って弔っているんですよ。じつにおもしろいじゃないですか。応仁の乱世ですよ。人間の命なんかもゴミあくたに見られていた頃ですからね。それにまた、一休には、めくらの森の瞽女という愛人もいましたし、色道にかけては、さきに右近の例で云ったように、捨て身で、人間の性慾なるものへ、身をつッこんだかと思われるふしもあります。それを真似て、彼の息子が放埓な堕落僧となったりして、父としての苦渋を舐めた一休です。