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しょうせつのタネ
小説のタネ
吉川 英治
「文藝春秋」1957(昭和32)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,376 字 · 23 页
ともかく、雑書雑然というやつです。
最近、ちょっと思い寄りがあって、「西遊記」に関する本を大分集めましたよ。あの中の、孫悟空ってものは実におもしろい。少年時代から「西遊記」は三、四回ぐらい読んでいますね。今年は軽井沢で暇があったので、孫悟空研究ってほどじゃないけど、ひとつ、おさらいをしてみようと思って、もう一回全編を読んでみました。そして「西遊記」の作者の空想力にあらためて驚嘆したですよ。いかに僕が空想家だと云っても、あれにはとてもかなわない。日本の古典とおなじように、「西遊記」の作者も誰なのか、よく分ってませんが、魯迅の説だと、明代の呉承恩だといってますね、ま、それはとにかく、あの雄大な空想力というものは、島国に生れた作家の小ッさい空想などとはてんでケタが違うんだな。まったく天衣無縫ですよ。
けれど、あの「西遊記」も、今日読んでみると、おもしろいのは、全編の五分の一ぐらいのところ迄でしょうか。あとはどうも面白くない。然し、その空想力の逞しさは、たとえば今日の科学者が電子、量子へ向って、挑みかけている夢とも匹敵するほどなもんですよ。東洋の四大奇書の一つといわれるわけですね。