轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

しょうせつのタネ

小説のタネ

吉川 英治

「文藝春秋」1957(昭和32)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,376 字 · 23 页

青空文庫

かなり長い間、ピシッピシッと盛んな朝稽古の弓鳴りが聞え、それが止むと、やがて今度は、音吐朗々と経書を読む声がするんです、それが逗留中、毎朝、欠かすことがなかった。そこで江漢が宿の主人に、

『いったい隣りの湯屋敷は、誰のお下屋敷か?』

と訊いてみた。すると主が、阿波の藩主蜂須賀重喜の屋敷だというんです。ところが、『それは奇異だ』と江漢がいぶかった。当時、巷の風説では、阿波の藩主蜂須賀重喜は本国で非常な暴政をやったため、幕府の譴責を受けて蟄居を命ぜられた人だということを江漢も聞いている。もし隣邸の湯御所の主君がその重喜であるならば、これは暴君どころじゃない。世には、おかしいこともあるものだ――ということを、その紀行「春波楼筆記」の中で諷刺的に書いているんです。これをヒントに僕は二、三年にわたるあんな長い空想の中に遊び呆けて書きつづけたわけなんですね。

よく辰野隆さんなんかが、

『吉川氏は「鳴門秘帖」の前にも後にもいろいろな物を書いてるけど、面白いということにかけちゃあれが一番だな』

と云われますが、自分にしてもそうかなアと今にして思いますね。自分が少年時代から持ってた空想の習癖をあんなに、思い果たすほど、ほしいままに駆使したことは以後無いような気がします。