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しょうしょうしげもとのはは
少将滋幹の母
谷崎 潤一郎
「毎日新聞」毎日新聞社、1949(昭和24)年11月16日~1950(昭和25)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 83,234 字 · 160 页
を逸するようになって行ったので、乳人が案じるのも無理はなかった。父は乳人に諫められると、その時は素直に詫びるのであるが、その日のうちに直ぐもう正体もなく酔いしれると云う有様で、詩を吟じたり、泣き喚いたりするくらいはまだしも、夜中にふら/\と何処かへ出て行って、二三日も帰って来ないことがしば/\だったので、
「何処へおいでになったのでしょう」
と、乳人や女房たちが額を鳩めて相談しながら溜息をついたり、それとなく人を出して捜索させたりしていることも珍しくなかった。滋幹もそんな時には、子供は子供なりに胸を痛めたものであったが、二三日すると、夕方にひとりでひょっこり帰って来たこともあり、誰も気が付かぬうちに、部屋に戻って臥ていたこともあり、人に見付けられて連れて来られたこともあった。一度などは、都を離れた遠い野末に行き倒れていたのを捜し出されたとやらで、戻った時の姿を見ると、髪は乱れ、衣は破れ、手足は泥にまみれて、乞食坊主のようになっていた。乳人は呆れて、
「まあ」
と云ったきり、涙をぽろ/\零しているばかりであったが、父も極まり悪そうに下を向いて何も云わず、こそ/\と部屋へ逃げ込んで、夜着に顔を埋めてしまった。