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しょうしょうしげもとのはは

少将滋幹の母

谷崎 潤一郎

「毎日新聞」毎日新聞社、1949(昭和24)年11月16日~1950(昭和25)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 83,234 字 · 160 页

青空文庫

(中略)それにつけてもあはれ無益に侍るべきかな、夢のうちのかりそめのこと故に、永き世に眠らんこと、辛くぞ侍るべきなど思ふべきにや」と云っている。

「あやしの男野原にてかばねを見て心をおこす事」と云うのも、大体同じ趣意の教訓を含んだ説話であって、或る男が野原で浅ましい女の屍骸を見て帰ってから、その形相が頭にこびりついて離れず、妻と相抱いて寝ながら、妻の顔をさぐり合わすと、額のありどころ、鼻のありどころ、唇のありどころ等々が、悉くその死人の相にそっくりであるように思われて、結局無常を悟るに至ると云う筋で、「止観のなかに、人の死にて身のみだるゝより、遂にその骨を拾ひて煙となす迄の事を説きて侍るは、見る眼も悲しう侍るぞかし、斯やうの文も暗き男のおのづからその心おこりけん事」は、猶々有難い事であると云っている。

そこで、その修行とはどう云うことをするかと云うのに、かの禅僧が坐禅する時のように独りしずかに座を組んで瞑目沈思し、一事に向って想念を集注するのである。その一事とは、たとえば自分の身は父母の婬楽の結果の産物であって、本来は不浄不潔な液体から生れたものであると云うこと、大智度論の言葉を引用すれば、「身内の欲虫、人の和合する時男虫は白精、涙の如くにして出で、女虫は赤精、吐の如くにして出づ、骨髄の膏流れて此の二虫をし