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しょうしょうしげもとのはは
少将滋幹の母
谷崎 潤一郎
「毎日新聞」毎日新聞社、1949(昭和24)年11月16日~1950(昭和25)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 83,234 字 · 160 页
「又此の男の家には、前栽好みて造りければ、面白き菊などいとあまたぞ植ゑたりける」とある平中日記の一段には、或る月の美しい夜に、平中の留守をうかゞって女たちがひそかに菊の花を見物に来、丈の高い花の茎に歌を結いつけて帰ることなどが記されているが、大和物語にも、仁和寺の宇多上皇―――亭子院の帝が平中をお召しになって、「御前に菊を植えたいと思うので、よい菊を献上するように」と云う仰せがあったことを記している。その時院は、平中が畏まって退出するのをお呼び止めなされて、「その献上の菊の花には歌を添えて参れ。そうでなければ受け取らないぞ」と仰せになったので、平中はひとしお畏まって退き下り、我が家の庭に咲き誇っている菊の中から優れた数株を選び取って、それに歌を添えて差上げた。古今集巻五秋歌の下に、「仁和寺に菊の花めしける時に、歌そへて奉れと仰せられければよみて奉りける」と云う詞書の附いているのが即ちそれである。―――
秋をおきて時こそありけれ菊の花
うつろふからに色のまされば
さて彼が丹精して作ったそれらの菊の花どもゝすっかり色香が褪せてしまったその年の冬の、或る晩のことであった。