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しょうしょうしげもとのはは
少将滋幹の母
谷崎 潤一郎
「毎日新聞」毎日新聞社、1949(昭和24)年11月16日~1950(昭和25)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 83,234 字 · 160 页
それに今宵は誰も彼もが羽目を外して燥いでいるのに、どう云うわけか平中はひとり沈んで、自分だけは酒が甘くないと云いたげな様子をしているのであった。
と、時平がそれに眼をつけて、
「佐殿」
と、遠く隔たった席から呼んだ。
「あなたは今日は妙に萎げておられるね。何か仔細があるんですか」
時平の顔にいたずら好きな子供がするような、意地悪な微笑が浮かんだのを、平中は世にも恨めしそうに横眼で見たが、
「いや、そんなことはございませんが、………」
と、強いて苦しそうな愛想笑いを洩らして云った。
「でも可笑しいですね、酒がちっとも行かんようじゃないですか、もっと飲み給え/\」
「十分戴いているのでございます」
「そんなら一つ、得意の猥談でも聴かせ給え」
「御、御冗談を仰っしゃっては、………」
「あッはゝゝゝゝ、どうですか方々」
と、時平は一座を見廻して、平中を指さしながら、
「此の人は猥談と惚気話が頗る得意なんですが、一席こゝでやって貰おうじゃないですか」
「ようよう!」
「謹聴々々!」
と、皆が拍手したが、平中は泣き出しそうな顔をして、
「御勘弁を/\」
と、頻りに首を振るのであった。時平はいよ/\意地悪な笑いを露骨に示して、いつも私に聴かしてくれるのに、なぜ此の席ではやれないのか、聞かれて困る人でもいるのか、どうしてもやらないなら、私が素ッ葉抜くがよい