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あきかぜとはは
尾崎士郎短篇集
尾崎 士郎
尾崎士郎『尾崎士郎短篇集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:秋風と母、運命について、河鹿、菎蒻、三等郵便局、十三夜、鶺鴒の巣、滝について、叛骨・中野正剛、蜜柑の皮。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 108,032 字 · 216 页
その顔は気品と言うよりもむしろ、一種の淋しさを含んでいた。若しわたしが往来で彼女と擦れちがったとしても、おそらく彼女の存在に気付かなかったであろう。彼女には意識したけばけばしさがなく半生が芸妓であったという過去の痕跡――彼女は産れ落ちるとすぐに芸妓となるべく養育せられていたのだから――を少しもとどめていなかった。
家の中は静かであった。わたしが想像した変化は何処にも起っていなかった。唯、兄の顔だけが非常に生々として見えた。若い事務員たちによって充たされた事務室の中の空気は賑やかな倶楽部のような感じを与えたし母の顔にも今まで感ぜられなかったようなゆとりが現われていた。昔、父の居間であった新しい局長室には、見馴れた用箪笥の上に金で装飾された置時計が飾られてあった。
不思議なほど家の中の生活が潤沢に見えた。
兄は始終そわそわとしていたので、わたしは落ちついて彼と話をする機会をつくることができなかった。彼の顔は瞬間を追って変っていった。疲れ果てたようにぐったりしているかと思うと急に生々とした血の色が痩せた彼の頬を彩った、寝そべって一心に本を読んでいるかと思うと彼は何時の間にか頬杖をついて鼻唄をうたっているのであった。