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あきかぜとはは
尾崎士郎短篇集
尾崎 士郎
尾崎士郎『尾崎士郎短篇集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:秋風と母、運命について、河鹿、菎蒻、三等郵便局、十三夜、鶺鴒の巣、滝について、叛骨・中野正剛、蜜柑の皮。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 108,032 字 · 216 页
おそれ多くはあっても、自分の手をもって焼くべきがせめてもの今日に処する心構えであると思った。もはや一刻の猶予もゆるされぬ。火はたちまち額に燃え移った。ゆらゆらと風に煽られる焔の色が私の眼にいきいきと映ってきた。もはや最後の運命は数分のあいだに迫っている。しかしどのような危機が迫っているとしても、一つの任務を果すことが出来たということだけで私はゆったりとした安らかさを覚えた。この上は唯いさぎよくありたい、――どんなことがあってもとりみだした醜態をさらけだすようなことのないようにと心に念じた。落ちついて来るべきものを待たねばならぬ。私はパサイの収容所係を命ぜられているのである。時間の経つのがおそろしく早い。伊吹ひろ子ともいよいよこれが最後の別れだと思うと涙がどっとこみあげてきた。それを見せまいとするために、私は口笛を吹きながら大股に肩を張って門の外まで歩いていった。
朝であったが、収容所にあてられた倶楽部の中はひっそりとして、私と同じ役割を帯びた五、六人の同僚が廊下の椅子に腰をおろしている。同じ会社に勤めていても顔を見知らない連中ばかりなので、互いに名刺を交換しあい、在留邦人にはもう避難の指令が下ったろうとか、今に此処の収容所にも避難民が殺到して来るだろうというような話をしながらも、胸は不安にときめく思いで