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あきかぜとはは

尾崎士郎短篇集

尾崎 士郎

尾崎士郎『尾崎士郎短篇集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:秋風と母、運命について、河鹿、菎蒻、三等郵便局、十三夜、鶺鴒の巣、滝について、叛骨・中野正剛、蜜柑の皮。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 108,032 字 · 216 页

青空文庫

だから、彼は結局誰とも話をしないのと同じであった。それで私が彼について知ることのできたすべては、彼が彼の隣人である相場師よりも、ずっと古く二、三年前からこの四階の同じ部屋に陣取っているということだけであった。彼が何によって生活しているかということは宿の番頭たちも知らなかった。それは知られる必要のないことだったから。このあたりの港街に軒をならべているどの宿屋にも、決して宿料を払わないところのこういう種類の人間が二人や三人はごろごろしているということに彼等は心を煩わす理由がなかった。しかし、日暮れがた、B路の大通りを通ると、私はよくT旅館からあまり遠くない距離にあるベビーガーデンの中を、大きなマドロスパイプをくわえたこの老人が黄昏の残光の中を悠揚として歩いている姿を見かけたのである。彼は色の剥げた紺セルの洋服を着て、ズックの靴を穿いていたが、その無恰好な姿は、あまりに街の空気と不調和過ぎるために少しも哀れに見えなかった。哀れに見えないというよりも、むしろ何か静かな喜びの中に心を委ねているように思われた。彼はもちろん私を訪ねて来なかったし、また私の来訪を待ちうけている筈もなかった。