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あきかぜとはは

尾崎士郎短篇集

尾崎 士郎

尾崎士郎『尾崎士郎短篇集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:秋風と母、運命について、河鹿、菎蒻、三等郵便局、十三夜、鶺鴒の巣、滝について、叛骨・中野正剛、蜜柑の皮。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 108,032 字 · 216 页

青空文庫

ておられたようでございます。

「それでは」

と、典獄が最後の決意をうながすようにせきたてますと、あのひとはよろよろと立ちあがりましたが、わたくしがそばから、

「おまちなさい、今、お経をよみますから」

と申しますと、

「いや、それには及びますまい」

と、ささやくように申されただけで、そのまま、もとの椅子にぐったりとよりかかって何か小声で呟いておられる様子でございました。それが、一瞬間でも長くそこにいたいというかんじで、わたくしは思わず顔を反けたほどでございます。

それで、

「何か思い残しておいでになることはありませんか?」

と、かさねて申しますと、あのひとははじめて淋しそうな微笑をうかべて、何か言おうとされましたがそれもそれきりでじっと押しだまっておられました。というよりもありていに申しますと舌が硬ばって声さえも咽喉をとおらないという様子に見られました。今になるとそのときのあのひとの気もちが手にとるようにわかるようでございます。それから二、三分間、おなじ姿勢のままで茫然としておられたように思いますが、いきなり大声で笑いだされたのでわたくしは思わずびっくりいたしましたが、――まったくだしぬけなので気が狂ったのではないかと思ったほどでございます。