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あきかぜとはは

尾崎士郎短篇集

尾崎 士郎

尾崎士郎『尾崎士郎短篇集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:秋風と母、運命について、河鹿、菎蒻、三等郵便局、十三夜、鶺鴒の巣、滝について、叛骨・中野正剛、蜜柑の皮。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 108,032 字 · 216 页

青空文庫

金近陽介さんがあんなにみぐるしく狼狽なすったということも助かるぞ、助かるぞという希望があのひとの心をぐらつかせたにちがいないのです。世間ではあのひとのことはおかみの間者だということにされているそうでございますね。今にして思うとあのひとの悩みがそのことの予想のために、いっそうふかくなったと思われます。あのひとが最後に申された「ワナ」ということばもそのことのほかにはございますまい。わたくしの見たとおりのことをつつみかくさず申上げますればあのひとは、最初のうちは助かるという感情に落ちついていられたように思います。それにつけても人間の魂というものは何という統制のない見透しのつかないものでございましょう。ほかのひとたちが死ぬことにおびえながら煩悶懊悩に日をおくっておいでになるときにも、あのひとだけはかすかな不安のかげさえも心にのこしてはおられなかったように思いました。わたくしは何時も独房の中で大言壮語して力みかえっておられるあのひとを見るごとにさすがは若いときからかさねがさねの獄中生活でおのれを鍛えて来られたひとだけにこのようにりっぱな覚悟をおもちになっているのだと考えておりましたが、それも統制のとれぬ魂をもちあつかいかねてそういう素振りだけで自分をごまかしつづけていられたものと思います。