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あきかぜとはは
尾崎士郎短篇集
尾崎 士郎
尾崎士郎『尾崎士郎短篇集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:秋風と母、運命について、河鹿、菎蒻、三等郵便局、十三夜、鶺鴒の巣、滝について、叛骨・中野正剛、蜜柑の皮。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 108,032 字 · 216 页
衰えたというだけで父も母も生きていたし、名古屋の通信官吏養成所を卒業して帰って来た兄は、三等郵便局としてはあまりに広すぎる事務室に彼好みの官僚的な色彩を加えて数人の若い事務員を頤使していたし、下女や作男たちは昔のように微笑みをもってわたしを迎えてくれていたにもかかわらず、家の中の空気は何かしら空虚に歪んで見えた。言わば家としての存在が次第に稀薄になってゆくような感じであった。
父はその頃完全にモルヒネ中毒に犯されていた。三十前後に胃痙攣を起して応急手当のために注射してもらったのがもとで、この二十年来注射器を手離すことが出来なくなっていた。それが死ぬ二、三年前からは、ほとんど一時間おきにうつ薬の量は急激な速さで殖えてきた。
モルヒネの効力がうすれかかってくるにつれて彼の意識は朦朧としてきた。一時間以上を必要とする仕事は最早彼の能力の堪うるところではなかった。わたしは父が彼の管理していた官金であるところの数百枚の十円札の束を中途まで数えながら、勘定を忘れてしまい忌々しそうに顔をしかめながら数回同じことを繰返して勘定を仕直しているのを見たことを覚えている。