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やまだちもんどう

山だち問答

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,163 字 · 32 页

青空文庫

「子供だましかどうか自分は知らない、然し約束は約束だ」と、玄一郎はしずかに云った、「……御用をはたした帰りには必ず身ぐるみ脱ぐ、志操高潔だという貴公たちがさむらいならわかるだろう、武士に二言はない」

「やかましい、裸になるかひと戦さか二つに一つだ、文句はぬきだ」

「武士なら武士らしくきっぱりしろ、抜くか、脱ぐか」

「ええ面倒だ片付けてしまえ」

段だん気合が乗ってきた。かれらは自分たちの呶号に自分たちが昂奮し、おのおの得物をとり直して、まさに打ちかかるようすだった。すると例のずぬけた巨漢が、「待て待て」と大きく手を挙げて仲間を制止した。

「いいからみんなちょっと待て、こんなばかげた話は初めてだが、武士に二言はないという言葉が気にいった、それに嘘がないかどうか試してみよう」

「それでは承知して呉れるか」

「待とう、但し断わって置くが、約束を破ったり変なまねをしたりすると、この始終を天下に触れて笑いものにするぞ」

「念のいったことだ」

玄一郎は微笑しながら頷ずいた。

「……では借りてまいる」

そして主従はそこを通りぬけた。……峠を越えて下りにかかると、月光の下に坂田郷の山々の美しい起伏が展開し、道の左右にもちらほら人家がみえだした。