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やまだちもんどう

山だち問答

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,163 字 · 32 页

青空文庫

「こちらはべつに馬子とも駕籠舁きとも思わないが、それで、……なにか用があるのか」

「大した用ではない、金品はもちろん、身ぐるみ脱いでいって貰いたいのだ」その巨漢はひどくおちついた声で云った、「……然し断わって置くがわれらは野盗でも山賊でもない、みんな志操高潔な武士だ、志操高潔なるがゆえに汚らわしい世間と交わることを欲せず、同志あい求めて山中に隠れ清浄なる自然のなかで身心を鍛錬しているのだ、伊吹山はすなわちわれらが城地、此の峠はわれらの関所だ」

「さむらいにして此の関を通る者は」と、巨漢の脇にいた一人が、大地に槍を突き立てながら喚いた、「……たとえ大名諸侯、将軍たりともわれらに貢しなければならぬ、清浄の地を汚濁の足で踏む代価だ、所持の金品は云うまでもない、大小衣服のこらず置いてゆけ、不承知なら論には及ばぬ、ひと戦だ」

「やるか」と叫びながら、叢林の中から背後の暗がりから、合せて凡そ三十人ばかりの人数がばらばらと前後へと詰めた。……玄一郎は動かなかった、眼の前にいる巨漢の顔をみつめながら、黙ってかれらの云うことを聞いていた。おそろしく時代な、芝居めかした言葉つきだなと思った。