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やまのかみさつじん

山の神殺人

坂口 安吾

「講談倶楽部 第五巻第一〇号」1953(昭和28)年8月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,014 字 · 21 页

青空文庫

小野は皮肉を浴せたが、諦めて靴をはいた。

「一ツだけ教えてくれ。さッき不二男がここへ来たろう」

「誰も来やしないッたら」

「誰もじゃない。不二男だ。二三十分前に表の戸を叩いたはずだ」

「知らないよ。グッスリねてたから」

小野はドシャ降りの表へでた。うしろで戸がピシャリとしまって、カギをかける音がしている。

「さッき、逃げたのが、不二男さ。奴サン、せっかく恋しい女のところへ駈けつけたのに、先客アリでしめだされ、そッと中をうかがっていたらしいや。このドシャ降りにご苦労な話さね。カツギ屋の後家なんぞ張るもんじゃないよ。カゼをひくだけだ」

不二男に女がいるという噂をきいていた平作は、さてはそれがあの女かと思った。

「あの女は後家ですかい?」

「後家のヒサさ。村一番の働き者で、イタズラ女さ。何人男がいるか分りゃしない。いまに血の雨が降らなきゃいいが、不二男なんぞも、気をつけないと……」

本通りで、平作は小野に別れた。いまに血の雨が降らなきゃいいが……小野の一言が彼の頭にしみついている。

「悪い女にかかりあっていやがる」

不二男のおかげで、わが家がメチャ/\になるような気がした。