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やまのかみさつじん

山の神殺人

坂口 安吾

「講談倶楽部 第五巻第一〇号」1953(昭和28)年8月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,014 字 · 21 页

青空文庫

終戦後、二町歩の田畑を五町歩にふやし、山林も買いつけ、町では押しも押されもしない歴とした旦那の一人となり、公安委員にもなったのに、不二男のおかげで、とかく人々の尊敬がうすい。

「せっかくオレがこれほどの身代を築きあげたのに、あの野郎がいるばかりに……」

平作のハラワタは煮えるようだ。彼の望みは大きい。彼の眼中に新しい農地法なぞはない。彼の頭にしみついているのは、昔からの農村伝説だ。

太陽がこッちの山からでてあッちの山へ沈むまでの土地をそっくり我が物とし、鶏がトキをつくるたびに黄金が一升ずつふえていくような分限者になりたいのだ。そして人々に百姓の王様と仰がれ、彼が野良を歩くと、案山子以外の全ての人間が泥の中へうずくまって土下座する。見渡す全てのミノリも、全ての山々の緑も、彼自身のものである。

「オレがママにならないのは太陽だけだ。人間のウジムシどもなぞが、オレにオソレ多くも話しかけることもできないようにならなくちゃア……」

夢のようなことを考える。ふと我にかえると、夢を裏切る現実に、まず何よりもハラワタが煮えたつのは不二男のことなのである。

術にかかる神様