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やまへかえりゆくちち
山へ帰りゆく父
小川 未明
「中央公論」1923(大正12)年12月
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 7,875 字 · 16 页
そこには、いろいろな草が、紫や、青や、白の花を咲かせていました。その花は、このあたりにはたくさんあっても、都ではとても見ることができませんでした。彼は、その花の一つ、一つを昔のお友だちにでもあったように、なつかしげにながめました。とんぼが飛んできて、かがやかしい羽を、花に止まって休めています。それに、じっと見入っていると、そのころ、いっしょに草の葉や、花をつんで遊んだ近所の女の子や、男の子の姿が、ありありと目さきにちらつくように映ってくるのでした。
しかし、その女の子も、男の子も、もういまではこの土地にはいません。みんな大人になって、女の子はお母さんになり、男の子はお父さんになっているのです。けれど、この草原の景色は、昔とすこしの変わりもありませんでした。草に咲いている花の色も、またとんぼの羽もすこしの変わりがありませんでした。
息子は考えました。「この草も都へ持ってゆこう。そして、朝晩ながめて、故郷のことを思い、子供の時分のことを考えよう……。」と、彼は、紫色の花の咲いている草を、根をつけて掘り取ったのであります。
やがて息子は、都に帰ることになりました。