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やまへかえりゆくちち

山へ帰りゆく父

小川 未明

「中央公論」1923(大正12)年12月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 7,875 字 · 16 页

青空文庫

」と、いうように聞こえました。

夕焼けの空は、昔も、今も、この赤い、悲しい色に変わりがありません。父親は、夕焼けの空をながめました。

「よく、自分は、せがれの手を引いて、夕暮れ方、町から帰ったものだ。あの時分のせがれは、どんなに無邪気で、かわいらしかったか。あのせがれがいまでは、りっぱな人間になったのだ。私が、こんなに年をとったのも、無理はない……。」と、考えにふけったのでした。

そして、老人は、いよいよ山道にさしかかりますと、山の上は、まだ、ふもとよりは、もっと明るくて、ちょうが飛んでいました。

「いま、おじいさんお帰りですか?」と、いっているように、人なつかしげに、老人の身のまわりを飛んでいました。せみも、ひぐらしも、このとき、みんな声をそろえて鳴きたてました。

「よう帰っておいでなさいました。あなたのお山は、いつでも平和です。おじいさん、あなたは、いつまでもこのお山においでなさい。そして、けっして、ほかへゆくなどと思いなさいますな。」と、みんなしていっているように聞こえました。

おじいさんは、にこにこしていました。

「なんで、こんないいところを捨てて、他国へなどゆけるものか。