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がけしたのいけ

崖下の池

豊島 与志雄

――近代説話――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,109 字 · 25 页

青空文庫

そしてこんどは、政子と信生とが、時々東京へ出て来ました。田舎で家鴨に親しんだ信生は、東京の家にも家鴨がほしくなり、それを池に泳がしたがりました。

「なるほど、家鴨もよろしいですな」と高鳥真作は言いました。

「池には、鯉に亀はつきものですが、家鴨もまた……。」

「鯉や亀は、どうせ入れるつもりだが、然し、家鴨はねえ……。やたらにそこいらじゅう、つっつき廻るだろうし、どうしたもんかな。家鴨を飼うくらいなら、いっそ、鵞鳥でもいいわけだが……。」

白い水鳥が池を泳ぎ廻ってるさまが、楽しく想像されました。ところが、しばし沈黙のあとで、高鳥真作は急に眉根を寄せました。

「家鴨か、鵞鳥か、そんなものを、ほんとに池へお放しなさるつもりですか。」

「それも面白かろうと思うがね。」

「まあ……お止めなすったらどうでしょう。泳いでるだけならいいが、水にもぐったり、泥をかきたてたり……第一、芹なんかだめになってしまいますよ。」

俄に意見が変りましたので、その真作の顔を、恒吉はじっと眺めました。眉の太い、陽に焼けた純朴な顔に、なにか落着かない色が浮んでいました。

「いちど、池浚いをなすったら、どうでしょうかなあ。