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くずれるおにかげ
崩れる鬼影
海野 十三
「科学の日本」博文館、1933(昭和8)年7月~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,100 字 · 69 页
私は思わず早口に独言を云いました。ああそれは何という思いがけない光景を見たものでしょうか。何という奇怪さでしょう。向うから白い服を着た男が、フワフワと空中を飛んでくるのです。それは全く飛ぶという言葉のあてはまったような恰好でした。私は何か見違いをしたのだろうと思いかえして、両眼をこすってみましたが、確かにその人間はフワリフワリと空中を飛んでいるのです。だんだんと其の怪しい人間は近づいて来ます。私は兄の腰にシッカリ縋りついていましたが、恐いもの見たさで、眼だけはその人間から一刻も離しませんでした。
「民ちゃん、恐くはないから、我慢をしているのだよ」と兄は私の肩を抱きしめて云いました。「じッと動かないで見ているのだ。じッとしてさえ居れば、あいつは気がつかないで、僕たちの頭上を飛びこして行っちまうだろう」
「うん。うん」
私はやっと腹の底からその短い言葉を吐きだしました。そのときです。怪しい人間が頭上五メートルばかりのところを、フワフワと飛び越しました。人間が飛ぶなんて、出来ることでしょうか。飛び越されるときに、なおもハッキリ下から見上げましたが、その怪しい人間は、寝台の上に乗ったように身体が横になっていました。