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こうふくのかんかく
幸福の感覚
宮本 百合子
「婦人画報」1940(昭和15)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,231 字 · 14 页
の方向は、現実に即していないという気持になり勝ちである。そして、自分にとって一番つかみやすい、一番たやすい、今日の自分だけの暮しの現実を小さく肯定するに一番便利ななにかの手がかりとなる観念に幸福というものの内容をゆだねて、それで簡単にかためてしまい勝ちである。世のなかの複雑な動きのあやから眼をはなさず、そのあやに織り込まれている自分の一生の意味を理解するところにいいつくせない面白さをも見出して生きて行こうとはせず、動的な現象事象から離れたどこかに、いわゆる久遠の幸福を感じようとする。だから、幸福とはどういうものかという問いに答える人々の言葉は実に区々で、ある人は幸福とは各人の主観でだけ感じられる一つの心境であるというし、他のある人は、最低限の衣食が足っていれば幸福であるとし、第三のひとは、健康こそ幸福であるというであろう。神の恩寵を感謝する心という宗教の心を、幸福の内容としている人もある。
この現象から、よく人は、幸福は本人が幸福と思うことのうちにのみあるもので、それがなにの中にあるかということは問題にする必要はない、という。
ところで幸福というものは一体私たちの生活にどんな形で存在しているものなのだろう。