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にわのついおく

庭の追憶

寺田 寅彦

「心境」1934(昭和9)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,434 字 · 7 页

青空文庫

餡入りの餅のほかにいろいろの形をした素焼きの型に詰め込んだ米の粉のペーストをやはり槲の葉にのせて、それをふかしたのの上にくちなしを溶かした黄絵の具で染めたものである。

正面の築山の頂上には自分の幼少のころは丹波栗の大木があったが、自分の生長するにつれて反比例にこの木は老衰し枯死して行った。この絵で見ると築山の植え込みではつつじだけ昔のがそのまま残っているらしい。しかし絵の主題になっている紅葉は自分にとってはむしろ非常に珍しいものである。

たぶん自分の中学時代、それもよほど後のほうかと思うころに、父が東京の友人に頼んで「大杯」という種類の楓の苗木をたくさんに取り寄せ、それを邸内のあちこちに植えつけた。自分が高等学校入学とともに郷里を離れ、そうして夏休みに帰省して見るたびに、目立ってそれが大きくなっているのであった。しかし肝心のもみじ時にはいつでも国にいないので、ついぞ一度もその霜に飽きた盛りの色を見る機会はなかったのである。大学の二年から三年にあがった夏休みの帰省中に病を得て一年間休学したが、その期間にもずっと須崎の浜へ転地していたために紅葉の盛りは見そこなった。