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にわのついおく
庭の追憶
寺田 寅彦
「心境」1934(昭和9)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,434 字 · 7 页
冬初めに偶然ちょっと帰宅したときに、もうほとんど散ってしまったあとに、わずかに散り残って暗紅色に縮み上がった紅葉が、庭の木立ちを点綴しているのを見て、それでもやっぱり美しいと思ったことがあった。それっきり、ついぞ一度も自分の庭の紅葉というものを見たことがなかったのである。それをかれこれ三十年後の今日思いもかけぬ東京の上野の美術館の壁面にかかった額縁の中に見いだしたわけである。
生まれる前に別れたわが子に三十年後にはじめてめぐり会った人があったとしたら、どんな心持ちがするものか、それは想像はできないが、それといくらか似たものではないかと思われるような不思議な心持ちをいだいてこの絵の前に立ち尽くすのであった。
次男が生まれて四十日目に西洋へ留学に出かけ、二年半の後に帰省したときのことである。船が桟橋へ着いたら家族や親類がおおぜい迎えに来ていた。姉が見知らぬ子供をおぶっているから、これはだれかと聞いたらみんなが笑いだした。それが紛れもない自分の子供であったのである。それがそうだと聞かされると同時に三年前の赤ん坊の顔と東京の原町の生活が実に電光のように脳裏にひらめいたのであった。