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しんじゅう
心中
「中央公論」1911(明治44)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,515 字 · 17 页
或る晩例の目刺の一疋になって寝ているお金が、夜なかにふいと目を醒ました。外の女ならこんな時手水にでも起きるのだが、お金は小用の遠い性で、寒い晩でも十二時過ぎに手水に行って寝ると、夜の明けるまで行かずに済ますのである。お金はぼんやりして、広間の真中に吊るしてある電灯を見ていた。女中達は皆好く寐ている様子で、所々で歯ぎしりの音がする。
その晩は雪の夜であった。寝る前に手水に行った時には綿をちぎったような、大きい雪が盛んに降って、手水鉢の向うの南天と竹柏の木とにだいぶ積って、竹柏の木の方は飲み過ぎたお客のように、よろけて倒れそうになっていた。お金はまだ降っているかしらと思って、耳を澄まして聞いているが、折々風がごうと鳴って、庭木の枝に積もった雪のなだれ落ちる音らしい音がする外には、只方々の戸がことこと震うように鳴るばかりで、まだ降っているのだか、もう歇んでいるのだか分からない。
暫くすると、お金の右隣に寝ている女中が、むっくり銀杏返しの頭を擡げて、お金と目を見合わせた。お松と云って、痩せた、色の浅黒い、気丈な女で、年は十九だと云っているが、その頃二十五になっていたお金が、自分より精々二つ位しか若くはないと思っていたと云うのである。