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しんれいさつじんじけん
心霊殺人事件
「別冊小説新潮 第八巻第一四号(創作二十二人集)」1954(昭和29)年10月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,557 字 · 52 页
五尺八寸もある大男、ガッシリした骨組、四角のアゴ、鋭い眼。
やがて九太夫はアリアリ思いだした。支那で見た少尉だ。大学をでたばかりの鬼少尉だ。人斬り少尉だ。便衣隊の容疑者とみると有無を云わさず民家の住人をひッたてて得意の腰の物で首をはねていたという鬼少尉。強盗強姦にかけてはツワモノで、彼は部下に大モテだった。部下は余徳にありつけるからだ。
九太夫は戦時に奇術師として諸方に慰問旅行をした。そのとき中支の奥の日夜銃声の絶えないところで、この少尉の部隊を慰問した。彼が部下をひきいて討伐にでかける姿を見たのである。そして彼の怖るべき所業の数々をむしろ讃美して語る人々の話をきいたのである。
当然戦犯として捕えられて然るべき人物だが――と九太夫は考えた。こういう人間に限って急場の行動迅速で、雲を霞と三千里、昨日の敵は今日の友、めったにバカを見ることがないのであろう。
「たしか中支の奥でお目にかかりましたなア。私は奇術の慰問にでかけたんですが、慰問のはじまる前に討伐におでかけでした。その名も高い鬼少尉と承りましたが」
「いえ、とんでもない。ぼくは内地の部隊にゴロゴロしてたんです」