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おもいでぐさ
思い出草
岡本 綺堂
「木太刀」1910(明治43)年11月、1911(明治44)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,303 字 · 11 页
これは近衛兵の一部が西南役の論功行賞に不平を懐いて、突然暴挙を企てたものと後に判った。
やはりその年の秋と記憶している。毎夜東の空に当って箒星が見えた。誰がいい出したか知らないが、これを西郷星と呼んで、先頃のハレー彗星のような騒ぎであった。終局には錦絵まで出来て、西郷・桐野・篠原らが雲の中に現れている図などが多かった。
また、その頃に西郷鍋というものを売る商人が来た。怪しげな洋服に金紙を着けて金モールと見せ、附髭をして西郷の如く拵らえ、竹の皮で作った船のような形の鍋を売る、一個一銭。勿論、一種の玩具に過ぎないのであるが、何しろ西郷というのが呼物で、大繁昌であった。私なども母に強請んで幾度も買った。
その他にも西郷糖という菓子を売りに来たが、「あんな物を喰っては毒だ」と叱られたので、買わずにしまった。
四 湯屋
湯屋の二階というものは、明治十八、九年の頃まで残っていたと思う。わたしが毎日入浴する麹町四丁目の湯屋にも二階があって、若い小綺麗な姐さんが二、三人いた。
私が七歳か八歳の頃、叔父に連れられて一度その二階に上ったことがある。火鉢に大きな薬缶が掛けてあって、その傍には菓子の箱が列べてある。