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みっつのあざ
怪奇探偵小説名作選1 小酒井不木集
小酒井 不木
小酒井不木『怪奇探偵小説名作選1 小酒井不木集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:三つの痣、暴風雨の夜、秘密の相似、卑怯な毒殺、鼻に基く殺人、初往診、呪われの家、猫と村正、肉腫、謎の咬傷、血の盃、人工心臓、新案探偵法、死の接吻、好色破邪顕正、血友病、狂女と犬、犬神、遺伝、按摩、ある自殺者の手記。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 196,140 字 · 396 页
すると彼は、つと、その左手をのばして、肉腫を鷲づかみにした。彼の眼は鷲のように輝いた。
「うむ、冷たい。死んでるな!」
こういい放って彼は細君の方を向いた。
「お豊? この繃帯を取って、俺の右の手を出してくれ!」
この思いもよらぬ言葉に私はぎょっとした。はげしい戦慄が全身の神経を揺ぶった。
「まあ、お前さん……」と、細君。
それから怖ろしい沈黙の十秒間! その十秒間に患者は、自分の右手が切り離されて眼の前にあることをはっきり意識したらしかった。
「ウフ、ウフ……」
うめきとも笑いとも咳嗽ともわからぬ声を発したかと思うと、彼は突然その唇を紫色に変え、がくりとして看護婦の腕にもたれかかった。その時、彼の左手は身体と共に後方に引かれたが、左手の指が肉腫の組織に深くくい込んで居たため、切り離された右手は、盆をはなれて白布の上に引っ張り出された。
そうして、五秒の後、断末魔の痙攣が起った時には、その右手も共に白布の上で躍って、あたり一面に血の斑点を振りまいた。