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みっつのあざ

怪奇探偵小説名作選1 小酒井不木集

小酒井 不木

小酒井不木『怪奇探偵小説名作選1 小酒井不木集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:三つの痣、暴風雨の夜、秘密の相似、卑怯な毒殺、鼻に基く殺人、初往診、呪われの家、猫と村正、肉腫、謎の咬傷、血の盃、人工心臓、新案探偵法、死の接吻、好色破邪顕正、血友病、狂女と犬、犬神、遺伝、按摩、ある自殺者の手記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 196,140 字 · 396 页

青空文庫

けれども、私が一層驚いたのは、隠居さんの風です。通常老人の年齢を推量することは困難なものですけれど、私は隠居さんが、九十歳以上にはなって居るだろうと直覚しました。といえば、大てい皆さんにも想像がつくだろうと思いますが、頭髪には一本の黒い毛もなく、顔には深い皺が縦横に刻まれて居て、どことなく一種のすご味がただよい、いわば、神々しいようなところがありました。然し、私にとっては、はじめて見た顔ですけれど、明かに、はげしい憂いの表情が読まれました。

――どうなさいました? どこがお悪いのですか。と、挨拶の後私はたずねました。

老婦人は無言のままじっと私の顔をながめました。その眼は異様に輝いて、もし、それが妙齢の女であったならば、恋に燃ゆるとしか思われない光りを帯びて居ましたから、私はぎょッとしたのです。

――先生、私はもう、死なねばなりません。とても、先生のお手でも、私の死を防ぐことは出来ぬと思いましたけれど、この年になっても、やはりこの世に未練がありますから、とに角御よびしたので御座います。

老婦人は、高齢に似ず、はっきりとした口調で語りました。もし、それが秋の夜ででもありましたら、恐らく私は座に堪えぬほど恐怖を感じただろうと思います。