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みっつのあざ
怪奇探偵小説名作選1 小酒井不木集
小酒井 不木
小酒井不木『怪奇探偵小説名作選1 小酒井不木集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:三つの痣、暴風雨の夜、秘密の相似、卑怯な毒殺、鼻に基く殺人、初往診、呪われの家、猫と村正、肉腫、謎の咬傷、血の盃、人工心臓、新案探偵法、死の接吻、好色破邪顕正、血友病、狂女と犬、犬神、遺伝、按摩、ある自殺者の手記。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 196,140 字 · 396 页
「ひえッ!」といったかと思うと、沢はその場に気絶して仰向きにたおれました。信之は愈よ慌てて水を取りに走り、それを沢の口へそそぎかけました。沢は凡そ二時間あまりも意識を恢復しませんでしたが、やっと、眼をさますと、むっくり起きて、室内の一隅を指し、
「あれ、奥さまが!」
といって顔を蔽いました。信之も流石にぎょっとしたらしいでしたが、
「馬鹿な、誰も居やせん」
「いえいえ、たしかに今、奥さまが、髪を振り乱して、そこに立って見えました」
「そんなことがあるものか」
「それじゃ、もう一度土蔵の中を見て来て下さいませ」
信之は、気が進まぬらしかったけれども、沢が頻に頼むので仕方なく、又もや、提灯をともして土蔵の中を見に行きました。そのとき暴風雨は益々はげしくなりました。
暫くすると信之は、土のように蒼ざめて帰って来ました。提灯を持つ手が、ぶるぶる顫えて居たので、沢はただならぬことが起きたと思いました。
「どうなさいました?」と沢はたずねました。
信之は沢の顔を見つめるだけでした。
「旦那様、どうかなさいましたか?」と、沢は再びたずねました。信之は先刻から、モルヒネを飲んだ患者のように、ぼんやりした眠たそうな顔をして居ましたが、その眠たそうな顔の中にも、恐怖の色がありありと見えました。