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きょうふのくちぶえ

恐怖の口笛

海野 十三

「富士」1934(昭和9)年8月号~11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,713 字 · 122 页

青空文庫

本当をいえば、彼は昨夜、四郎の屍体からそれを発見したのだった。蝋山教授がベルの音を聞いて法医学教室の廊下へ出ていった隙に、一郎はかねて信じていたところを行ったのだった。彼は四郎の屍体の口腔を開かせ、その中に手をグッとさし入れると咽喉の方まで探ぐってみたのが、果然手懸りがあって、耳飾の宝石が出てきた。実は蝋山教授を煩わして食道や気管を切開し、その宝石の有無をしらべるつもりだったけれど、怪しいベルの音を聞くと、早くも切迫した事態を悟り、荒療治ながら決行したところ、幸運にも宝石が指先にかかったのであった。素人にしては、まことに水ぎわ立った上出来の芸当だった。後から闖入して屍体を奪っていった痣蟹をみすみす見逃がしたのも、彼がこの耳飾りの宝石を手に入れた後だったから、その上危険な追跡をひかえたのであろうとも思われる。とにかくジュリアの耳飾の宝石は四郎の口腔から発見されたのだ。なぜそんなところに入っていたかは問題であるが、一郎がジュリアに発見の個所をことさら偽っているのは何故だろう。

「ジュリアさん。四郎は貴女に、誰からか恨みをうけているようなことを云っていませんでしたか」