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うらみなきさつじん

恨なき殺人

宮島 資夫

「新日本」1917(大正6)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,611 字 · 56 页

青空文庫

俺やまったく困ったことになった」と、鈴木は眼に一杯涙をためていた。

松田というのは、まだこの山へ来てから、十日と経たない男であった。或る朝、見張りに事務員が揃っているところへ、坑夫浪人らしい姿をして、ひょっと入って来た、若い男があった。そして、

「鈴木さんという方はお出でですか」と訊ねた。

「俺が鈴木だ」と言って鈴木が出て行くと、その男は、

「赤木の親分から手紙を貰って来ました」と、腹掛けから出した手紙を渡した。鈴木はそのクシャクシャになった手紙を読みづらそうに眺めていたが、

「ああ、赤木の兄弟も奉加帳になってしまったのか」と悲しそうにつぶやいたが、

「お前は松田というのか」とその男に訊ねた。

「ええ、そう申します」と、若い男は坑夫の挨拶のような口調で答えた。

「何時坑夫になった」

「一昨年で、まだ未熟もんでございます」と頭を下げた。その容子が可笑しいので、見張りにいたものはみんな笑い出した。

「まあ好いや、この山は今一杯で使役どめだし、そんな腕じゃ坑夫にはなれないから、支柱手子にでもなるように相談しておいてやる。此処を下ると飯場があるから、二号の方へ挨拶をして上ったら、村の俺の家へ行って待っていろ、赤木の兄弟のことも聞きたいから」