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うらみなきさつじん

恨なき殺人

宮島 資夫

「新日本」1917(大正6)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,611 字 · 56 页

青空文庫

子供のない鈴木がなつかし相に言ったので、

「ありがとうございます」と叮嚀に辞儀をして、行李をゆすって下って行った。

松田はその翌日から、支柱手子として働いていた。無口なおとなしい青年であった。

池田は、松田のような男が寅吉を殺したのは不思議だと思った。

「松田が切ったって、本当かしら」と言うと、鈴木は、

「自分で切ったって言うんだから仕方がねえ。マア、君一つ行ってよく聞いておくれ、俺あ、ああ言う義理合いでどうも出ねえ方が好いと思うから」と、がっかりしたように言った。

「じゃ、行って来よう、もしそうだったら、自首でもさせるかね」

「仕方がねえな」と鈴木がうなずいたので、池田は急いで下って行った。

飯場の中は妙にひっそりしていた。萩野は何時ものように、火の気のない炉のそばに、どっかりと安座をかいていた。その側には、裸体になった坑夫が三四人、ごろごろと寝転んでいた。

「萩野君、弱ったことになったね」と、池田はいきなり言うと、

「俺も全く驚いちゃって」と笑いながら蒲団をすすめた。

「此処で話をしてる暇もないだろう」と、池田は腰もかけずに、

「松田は何処にいるの」と訊ねた。