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うらみなきさつじん

恨なき殺人

宮島 資夫

「新日本」1917(大正6)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,611 字 · 56 页

青空文庫

「裏で支度をしているところでさ」と、萩野はそっと裏口の方を指した。

「じゃ、裏で話を聞いてみようじゃないか」

池田は萩野を促して裏口の方へ廻った。

薄暗い風呂場の中で、生温い水で手足の泥を洗い落していた松田は、二人の顔を見ると、一寸会釈をした。が、細面の顔は何となく蒼ざめていた。

二人はその傍に腰を下して、松田の支度が済むのを待っていた。身体を洗ってから、単衣物に着かえると、松田は二人のところへ来て、

「どうも飛んだ御迷惑をかけて済みませんでした」と頭を下げた。

「迷惑も何もないが、何だって人なんか切ったんだい」と池田が訊いた。

「どうも済まないことをした。来る早々こんなことをやっちゃって、鈴木の伯父御には何とも申訳けがないもんだから、つい愚図愚図してしまって」と、若々しい顔にも、暗いくもりを見せていた。

「仕方がないさ、時のはずみだ」

萩野はなだめるように言ってから、

「お前一体どうして寅を切ったんだか、話してみろ」とまた訊ねた。

松田はしばらくジッと考えていたが、

「どうも頭ん中が、こんがらかって、何が先きだか忘れちゃった」と言いながら話し出した。

祭りがあったのは、松田がこの山に来てから四日目であった。