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あくりょう

悪霊

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1933(昭和8)年11月~1934(昭和9)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,980 字 · 67 页

青空文庫

その黒服の男と矢絣の女のどちらかであったと極めてしまうのは無論早計だけれど、姉崎家は主人の死亡以来訪問者も余り多くなかったという事だから、その乏しい訪問者の内の二人が分ったのは、可成の収穫であったと云っていい。

それから捜査の人達は手分けをして、姉崎家の表門裏門への通路に当る小売商店などを、一軒一軒尋ね廻って、胡散な通行者がなかったかを調べたが、別段の手掛りも得られなかった。ただその内の刑事の一人が、電車の停留所から姉崎家の表門への通路に当る一軒の煙草屋で、さい前の躄乞食の証言を裏書きする聞込みを掴んで来た外には。

その煙草屋のおかみさんが云うのには、黒い洋服を着た人は幾人も通ったので、どれがそうであったかは分らぬけれど、矢絣の女の方は、髪の形が余り突飛だったので、よく記憶しているが、二十二三に見える縁なし眼鏡をかけた濃化粧の異様な娘さんで、通りかかったのは二時少し過ぎであった。「新派劇の舞台から飛び出して来たんじゃないかと思いましたよ。妙な娘さんでございますね」と、刑事はおかみさんの声色を混ぜて報告した。そして不思議な一致は、おかみさんも、乞食と同じ様に、その女の帰る所を見ていないことだ。