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あくりょう

悪霊

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1933(昭和8)年11月~1934(昭和9)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,980 字 · 67 页

青空文庫

女は来た時とは反対の道を通って帰ったのかも知れない。或は、煙草店の主婦が用事に立っている隙に通り過ぎたのかも知れない。

躄乞食の証言が決して出鱈目でなかったことが分った。庇髪に矢絣の、明治時代の小説本の木版の口絵にでもあり相な娘さんが、昭和の街頭に現われたのだ。それ丈けでも何となく気違いじみた、お化けめいた感じなのに、その不気味な令嬢が美しい未亡人の裸体殺人事件の現場に出入りしたというのだから、これが人々の好奇心を唆らない訳がなかった。仮令直接の犯人ではないとしても、この娘こそ怪しいのだと考えないではいられなかった。

綿貫検事は、未亡人の実兄や女中を捉えて、二人の人物に心当りはないかと尋ねたが、洋服の紳士の方は余り漠然としていて見当がつかぬし、矢絣の娘の方は、そんな突拍子もない風体の女は全く知らない、噂を聞いたことすらないとの答えであった。

以上が当夜捜査の人達が掴み得た手掛りらしいものの凡てであった。僕が現場で見聞し、後日綿貫検事から聞込んだ事柄の凡てであった。この事件の最も奇怪な点丈けを要約すると、被害者が全裸体であった事、致命傷の外に全身に六ヶ所の斬り傷があって、その血がてんでんに出鱈目の方向へ流れていたこと、現場に奇妙な図形を記した紙片が落ちていて、それが唯一の証拠品であったこと、時代離れのした