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あくりょうものがたり
悪霊物語
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」講談社、1954(昭和29)年9月増刊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,207 字 · 17 页
だが、ふしぎなことに、この美しいモデル娘は、少しも裸体をはにかむ様子がなかった。無言のまま、向うの衝立の蔭にはいって、しばらくすると、素肌の上にガウンを着たらしい様子で出て来た。
「先生、まだ心臓が静まりますまい。こういうときは一ぱいやるに限ります。この子に酌をさせて、あちらで又一ぱいやりましょう」
老人形師は燭台を持って先に立ち、その次にガウンの美女、あとから蘭堂がつづいた。
以前の書斎で、それぞれ椅子にかけると、またコニャックの酒盛りがはじまった。心がときめいているので、酒の廻りが早く、蘭堂はじきに酔い心地になった。
美女は殆んど口をきかなかった。何か云われると、ニッコリ笑って頷いたり、かぶりを振ったりするばかりであった。しかし、彼女も酒は少しずつ飲んだ。やがて目のふちがポーッと赤くなって来た。
娘は人形から人間になって、またもとの人形に戻っていくように感じられた。生きた人間にしては余りに美しすぎた。ホフマンのオリンピア嬢はこんな美しさだったかも知れない。若し生きているとすれば――いや、生きているにちがいないのだが――この皺くちゃの老人が、どうしてこんな美しい女を手に入れたのか、ふしぎでたまらなかった。