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あくりょうものがたり
悪霊物語
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」講談社、1954(昭和29)年9月増刊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,207 字 · 17 页
「これが蝋人形ですか。なにかカラクリ仕掛けでもあるのですか。ああ、目だけじゃない。唇が動いている。息をしている……」
「生きているでしょう。あなた、わたしのトリックにかかりましたね。これはほんとうに生きているのですよ。人造人間じゃありません。さわってごらんなさい」
老人は無理に蘭堂の手を引っぱって、箱の中に横たわっている美女の肌にさわらせた。その肌は暖かくて弾力があった。
すると、人形が、くすぐったいと云うように、身もだえして、ムクムクと起き上がった。その時は、さすがの怪奇小説家も心臓が止まる思いをしたが、すぐに、それは老人形師の子供らしいトリックであることがわかった。箱づめになっていたのは、人形ではなく、ほんとうの生きた人間にすぎないことがわかった。
「ひどいいたずらをしますね。可哀そうにこのお嬢さんは、箱の中で、さぞ息ぐるしかったことでしょう」
蘭堂はそう云いながら、美しい裸女の手をとって、引き起し、箱のそとへ出るのを手伝ってやった。
「ごめん、ごめん。これが怪奇小説家のあなたには、何よりのご馳走だと思いましてね。実はこの女は、わたしのモデルなんですよ」