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あくりょうものがたり

悪霊物語

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」講談社、1954(昭和29)年9月増刊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,207 字 · 17 页

青空文庫

いつも、いちど先生にお目にかかって、お話がうかがいたいと申しております。先生のことなら、きっと喜んで、秘密のアトリエを見せてくれますよ」

ひどくお愛想のいい店員であった。伴天連爺さんのアトリエは世田谷の経堂にあるのだという。ぜひ、その爺さんに紹介してくれとたのむと、電話で、先方の都合を聞いて見ますから、しばらくお待ち下さいといって、いちど電話を切ったが、間もなく返事が来た。

「先生、先方はよろこんでおります。今晩七時ごろに手がすくから、その頃おたずねくだされば、お待ちすると云っております。先生にくれぐれもよろしくと申しました」

そこで、大江蘭堂は、その晩、経堂の伴天連爺さんを訪問することにした。

経堂の駅で電車をおりて、教えられた道を十丁ほど行くと、街角に大きな石地蔵が立っていた。その向うは森になっていて、森のわきを歩いて行くと、生垣や塀ばかりの屋敷町で、ところどころに草の生えた空地があった。ボンヤリした街燈をたよりに、やっと目的の家にたどりついた。ガラスの割れた門燈が「日暮紋三」という表札を照らしていた。これが伴天連爺さんの本名なのである。

とびらもない門をはいって行くと、草の中に古い木造の洋館が建っていた。