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あくりょうものがたり
悪霊物語
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」講談社、1954(昭和29)年9月増刊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,207 字 · 17 页
こちらの足音を聞きつけたのであろう。玄関のドアがひらいて、赤い光の中に小柄な老人のシルエットが浮き出した。赤い光はチロチロ動いていた。老人は燭台を自分のからだのうしろに持って、こちらをじっと見ているらしかった。
「大江蘭堂先生でしょうな? どうぞ、おはいり下さい。お待ちしておりました」
何かの鳥がさえずっているような、妙に若々しい声であった。
「わたしがバテレンじじいです。よくおいで下さった。さア、こちらへおはいりください」
手をとらんばかりにして、廊下のドアをひらき、書斎らしい洋間に請じ入れた。
部屋にも電燈はなかった。爺さんはあたりの様子を見せるように、太い蝋燭の燭台をふりてらしてから、それを机の上に置いた。
書棚にえたいの知れぬ古本がならんでいた。壁には、レオナルド・ダ・ヴィンチの人体解剖図の大きな複製がベタベタ貼りつけてあった。村役場にあるような粗末な木机と木の椅子、蘭堂はその一つにかけさせられ、爺さんも向かいあって腰かけた。
これはすばらしい。これはもう、そのまま怪談の材料になる。蘭堂はホクホクしていた。爺さんも蘭堂に会えたのが、ひどく嬉しいらしく、