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あくりょうものがたり

悪霊物語

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」講談社、1954(昭和29)年9月増刊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,207 字 · 17 页

青空文庫

「よく来て下さった。なんでもお見せします。なんでもお話しします。じゃが、その前に一ぱい如何ですな。上等のコニャックがあります」

そういって、本棚の古本のあいだに入れてあった、変な形の酒瓶とグラスを二つ持って来て、酒をついだ。蘭堂がグラスを取って、嗅いで見ると、なるほどすばらしいコニャックだ。チビリとやって、爺さんの顔を見ていると、爺さんもチビリとやって、ニヤニヤと笑った。

「人形師の秘密がお知りになりたいのですな、小説にお書きになる?」

だんだん蝋燭の光が目に慣れて来た。爺さんは、六十五六歳に見えた。黒いダブダブの洋服を着て、痩せて、顔におそろしく皺があった。目は澄んでいた。茶色の瞳だった。顔にも老年のシミが目立っていた。

「マネキン人形は鋸屑と紙を型にはめて、そとがわにビニールを塗るのですか」

「そういうのもあります。いろいろありますよ。しかし、わたしは、ショーウィンドウのマネキンなんか造りません。そんなものは、弟子たちにやらせます。わたしは本職の人形師です。子供の時分に、安本亀八に弟子入りしたこともある。日本式の生人形ですよ。桐の木に彫るのです。上から胡粉を塗ってみがくのです。