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あくま
悪魔
小川 未明
「新文藝」1910(明治43)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,591 字 · 16 页
手足を機械的に動かしている。瞳は一所にじっと坐って、青みを帯んだ太い腕は力なげに動いていた。杉の木の闇で上下に飛んでいる羽虫のそれより無意味に、無気力に思われた。鼻が低くて丈が低い。顔は円い。申し合せたように無縹緻の女ばかりだ。女の手足は、朝の七時に動き初まると、夜の十時にならなけれや止まない。汽笛が鳴ってばたりと止んだ時は、さながら、時計の螺旋が弛みきって、止まった刹那のように気味悪く音もない。
窓を見ている女の瞳は、空の一所に止ったぎり動かなかった。そこから、灰色の雲が破れて、息の吹き通るような穴の出来るのを待っているようだ。折々、平常聞きなれている、歌が耳に響いた。その歌は、気の抜けた石油のように火の付かない恋歌であった。
「お前さんの顔色は大変に悪いよ。」
と、白い腕を無意味に動かしている、顔の円い女は、窓を見た友に向って、極めて同情のない、だるい調子で言った。けれど、窓を見ている女は答えなかった。二十分も経ってから、後にいた女が、窓を見ている女の横顔を覗いて、
「お前さん、気分が悪くないの。監督が先刻から見ているよ。」その女の顔を見なくも、声で、顔の平らな、唇の薄い、眼の小さい、眼と眉毛の間の狭い女だということが判った。