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おろかないちにち
愚かな一日
豊島 与志雄
「太陽」1920(大正9)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,045 字 · 29 页
すると妻がその顔を覗き込んで云った。
「あなた、今日はどうしてそうお眠いんでしょう?」
彼は妻の顔をちらと眺めて答えた。
「なに、別に眠かないが、少し一人で居たかったからああ云ったんだ。」
「それなら初めからそう被仰ればいいのに。瀬川さんに遠慮なんかいらないじゃありませんか。」
「然し折角来てくれたんだから、そうもいかないさ。それはそうと、今晩何か御馳走をおしよ。」
「ええ。」
彼は暫く考えてから遂に云い出してみた。
「さっき妙な夢を見たよ。」
「どんな?」
「何でもね、広い野原だ。いつまで行っても野原ばかりで、畑も丘も見えない。僕はその中を非常な速さで横ぎっていった。まるで汽車にでも乗ってるようで、とても人間の足の速さではない。その上自分の身体はじっとしていて、ただ周囲の景色だけがずんずん後に飛んでゆくんだ。変だなと思うと、その時初めて気が付いた、僕は馬に乗っていたんだ。素敵に立派な馬でね、その馳け方の速いったらないんだ。得意になって鞭をあてていると、どうも様子が変なので、そっと下を覗いてみた。するとどうだろう、馬は僕を乗せて空中を翔っているんだ。天馬空を翔るとはあのことだね。