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わがやのらくえん

我が家の楽園

久生 十蘭

「オール読物」1953(昭和28)年1月〜6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 90,195 字 · 175 页

青空文庫

居ないことにしておいて、よかったわ」

と、山鳩のようなふくらんだ声でささやいた。賢夫人は自若とした顔で、

「鰻じゃないけど、とっつかまえて、目釘を打つところまでやってもらわないと、ヌラリクラリと逃げてばかりいるから」

わからないことをいっておいて、百々子のほうへ向きかえると、

「百々子さん、あなた、いままでお客さまのそばにいたんでしょう」

と探るような眼つきでたずねた。

「悪うございました……でも、バカに面白そうな話だったから」

「叱ってるんじゃないのよ……どんなことをいっていた? シュラーさんのことを話していましたか」

「シュラーというのは、千々子さまを欺して、香港へ連れて行こうとした、あの鳶色の先生のことですか」

「あれはワニちゃんでしょう。知っているくせに、恍けるのはおやめなさい。洋館にいたシュラー・ハークネスのことよ」

「さあ、どうだったかな」

「じゃ、もう一度行っていらっしゃい……そばに坐っていて、よくお話を聞いて、お父さまがお客さまに、じゃ、そうしようとか、承知しましたとか、オーケーの返事をしたら、すぐ呼びにいらっしゃい」

「むずかしそうだな……お父さまが、よろしいといったら、あなたの出番ですっていいに来るんだね……やってみましょう」