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わがやのらくえん

我が家の楽園

久生 十蘭

「オール読物」1953(昭和28)年1月〜6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 90,195 字 · 175 页

青空文庫

かくいう百々子は、そのころ学校があったので、日曜日に、ときどき見舞いに行ったが、五十雄君のそばに、千々子さまがいたためしがない。

「千々子さまは、どうしたの」

とたずねると、五十雄君は、地獄へ堕ちる瞬間の光景を垣間見た、聖者のような悲愴な顔で、さっき町へ行ったとか、千葉まで買物にとか、ささやくような声でつぶやいていたが、いまになって思いあわせると、千々子さまは、はじめっから五十雄君をダシにしていたので、賢夫人の諒解のもとに、東京へ出てきては、借家人のシュラー氏といいくらいに遊び歩いていたというわけなのだろう。当の千々子さまは、

「パパ、麻布の家に、どんなひとが住んでいるんでしょう。どうせ、威張りくさった嫌な奴にちがいないわ」

とか、あるいはまた、

「シュラーなんて、ナチの親衛隊長みたいな名だけど、まさかドイツ人じゃないでしょうね」

などと大恍けに恍け、シュラーがアメリカへ帰ってからは、玄関の三畳にひっこみ、行い澄ました顔でひねもす長い胴着を編みかえし、とうとう最後まで尻尾をつかませなかった。

石田氏は、相手に勝手にしゃべらせておいて、プールのあるほうをぼんやりと見おろしていたが、説話が一段落になったところで、だしぬけにヘンリ清水にたずねた。