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わがやのらくえん

我が家の楽園

久生 十蘭

「オール読物」1953(昭和28)年1月〜6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 90,195 字 · 175 页

青空文庫

「それはそうだが、そんなものを受取っていながら、あの千々子さまが、だまっているだろうか」

「そういわれると、なんだか心配になってきた。ひっぱたいて、言わしちまおうか。そうしても、いい時期だ……ちょっと行って、聞いてくる」

千々子さまは、子供のとき、軽い脳膜炎をやったので、賢夫人は神経の疲れるようなことはいっさいさせず、十三四のとしまで、読むものは、童話にかぎってしまったので、そのため、ひどく甘い頭になり、ひとより遅れて学習院の女子部へ通うようになってからも、友達が、

「あなた、どんな方と結婚なさりたい?」

とたずねると、千々子さまは、

「あたくしね、あのう、あたくしのほうは、お婿さまが、白いお馬に乗って、迎いにきてくださることになっていますの。それはそれは、たいへんなハンサムなの……みなさまには、ほんとうにお気の毒よ」

とこたえる。

千々子さまの白い馬といって、学習院じゅうの評判になっていたそうで、白い馬に乗ったひとは、千々子さまの弱い頭のなかでは、『英雄』の象徴といったようなものだったのだろうが、百々子などは、後でその話を聞いて、あまりのとりとめなさに、泣きたいような思いがした。