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わがやのらくえん

我が家の楽園

久生 十蘭

「オール読物」1953(昭和28)年1月〜6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 90,195 字 · 175 页

青空文庫

つまり、うちのメードさんは、駐屯基地の兵隊宿舎や、朝鮮部隊のテント・シティを、何年となく渡り歩いてきた豪傑だったので、そうと知ったら、いくら賢夫人でも、

「食事の時間だけは、キチンとやっていただきますよ。ずるずるにならないように」

などと、余計なことはいわなかったろう。もっとも、それだけが災難の源だったのではない。お目見得の最後の夜、いよいよ住込みときまったところで、賢夫人はケチンの機械どもを動かしてみせ、いちいち使い方を説明したが、賢夫人自身、つい昨日、生れてはじめてお目にかかった次第で、オーヴンのボンネットの開けかたも知らず、でたらめばかりいうもんだから、いっぺんに足もとを見られてしまった。

賢夫人は、そんなこととはしらないから、重々しい、威厳のある口調で、朝食の支度から、絨氈の掃除、ガラス拭き、メークベッド、夕方の洗濯の取込み、夕食後の皿洗い、アイロンかけにいたるまでの、一日の仕事の要領を、何十人もメードを使いまわしたひとの顔で、こまかく指図した。

メードさんは小さな手帳を出して、克明にノートするふりをしていたが、一段落になったところで、あらためて質問した。