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わがやのらくえん
我が家の楽園
久生 十蘭
「オール読物」1953(昭和28)年1月〜6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 90,195 字 · 175 页
薄闇をすかして、千々子さまの横顔をうかがうと、さすがに、気が荒れているのだとみえて、耳のうしろで、脈が躍るようにヒョコヒョコ動いていた。
九月はじめのある朝、家具屋の大きなトラックがうねりあがってきて、あるだけの家具を持って行ってしまったので、麻布市兵衛町なる、わが石田家は、空家のようなガラン洞になってしまった。ケチンにあった、敏感な機械どもも、まわりのタイルもろとも消えてなくなり、そのあとに、粗面の壁だけが残った。
石田氏と賢夫人は、千々子さまのサロンの床に座布団を敷いて坐りこみ、これからの暮しかたを、ぼそぼそと相談しているとき、大里という建築技師が、血だらけになった千々子さまを抱いて入ってきた。
賢夫人は血の気をなくした顔で、
「いったい、どうしたんです」
と、おろおろ声でたずねた。
「陸屋根のパラペットに、一カ所、脆いところがあるので、そこへ凭れたひょうしに、胸壁といっしょに下へ落ちたのではないでしょうか。ほかに、考えようがありません」
「屋根から落ちたんですって……かあいそうに、こんなにたくさん血をだして」
「ともかく、病院へお連れしましょう。