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わがやのらくえん
我が家の楽園
久生 十蘭
「オール読物」1953(昭和28)年1月〜6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 90,195 字 · 175 页
千々子さまのむずかしい頭のなかのことはわからないが、大里技師が、事故だったというなら、事故としておくほうがいいのかもしれない。
千々子さまが病院にいるあいだに、わが石田一家は、麻布の家に見切りをつけて、春までいた渋谷の奥のバラックに復帰した。
ある朝、百々子が、広尾の病院へ報告に行った。
「千々子さま、あたしたち、渋谷のバラックへ帰ったのよ。あなたは面白くないでしょうけど、こうするほうが、自然だから……賢夫人は、むかしのように、縁側の炊事場で、渋団扇で七輪のお尻をひっぱたいている」
千々子さまは、ギブスの繃帯をした太い腕を胸のうえにおき、ささやくような声で、つぶやいた。
「そうね……自然なのね……その意味、わかってよ……こうなってみると、あたしも、玄関の三畳で暮すほうが、たのしいような気がするわ」
その冬、千々子さまと大里技師が結婚した。石田家の六畳で、かたちばかりの式をあげ、大家の貉のおじいさんが、めでたく謡をうたいおさめた。