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わがやのらくえん
我が家の楽園
久生 十蘭
「オール読物」1953(昭和28)年1月〜6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 90,195 字 · 175 页
洋館といっている一廓も、ずいぶん古めかしいものだったが、御所造りの日本家屋のほうには、びっくりするような古代の空気がよどんでいた。
長持ち部屋だの、用途不明な部屋が、あちらこちらにあり、入り側になった廊下には、必要もない段々をつけて、わざと上ったりおりたりさせ、上の厠といっている二ノ間つきのご不浄は、畳を敷きつめた六畳ほどの広さで、地袋の棚には、書見台と青磁の香炉が載っているといったぐあいである。
そのかみの大名の客間だったところは、廊下から七寸高い上段の間になり、床脇の棚は醍醐の三宝院の写し、縁の手摺りは桂御所のを、杉戸は清閑院の御殿のを写し、なにもかもみな写しで、つい大正のはじめごろまでは、畳縁に鶴ノ丸の小紋を散らした上段の間に、紋綸子の大座布団を敷き、銀糸の五つ紋の羽織りに上田織りの裏付けの袴をはいた殿さまが、天目茶碗と高坏を据え、反り身になって、
「うちゃの!」
などと老いたる鶯のような声をだしていたのだそうである。
そのころ、わが石田一家は田舎に疎開していたので、現場に居合わさなかったが、麻布の家が接収されるときには、日米相互の誤解にもとづく、滑稽な、もんちゃくがあったらしい。